iPhoneと過ごした4つの季節

タイトルはちょっと文学的表現にしてみただけで、要は1年間iPhoneを使ってみて思ったこと、変わったことなどをまとめます。ちょうど良い節目だと思ったので。購入してすぐ書かなかったのは、iPhone買って浮かれ記事を書く人が世の中にゴマンと居るからで、自分はじっくり腰を落ち着けてから書いてみようと思いつつ、今日まで先送りにしていただけでした。

フリーランスのデザイナーにとって大変便利だったこと

iPhone。これは仕事、特にフリーランスの人間に多大なる恩恵、もしくは仕事から離れられなくする足かせをもたらす道具だな、とつくづく思います。実際、この4月からフリーランスでデザイン系の仕事ちょこちょこ請けていますが、あまりに便利過ぎて、最早iPhoneなしでは仕事が成立しないぐらいです。受発注のメールやりとりからスケジューリング、連絡先と名刺整理、制作実務以外の周辺雑務は、やろうと思えばiPhone1台で出来ちまいます。もちろん、デフォルトではなく、様々なアプリやWebサービスを組み合わせて、という前提ではありますが、この実力は驚異的です。そして、フリーランスな人にはありがちな、週7日稼働を実現してくれるという意味でも脅威的であったりするのです。

メアドの1本化

メールアドレスを1本にまとめられることです。多くの人がPCと携帯のアドレスを持っていると思います。フリーで仕事をすると、メールで素材の受け渡しをすることが多いので、わざわざ「PCのほうに送って」と前置きしなければいけないのです。とはいえ、出先で緊急的に素材をチェックしたい場合には「携帯に送って」となる場合もあるでしょう。最近は携帯のスペックも高くなりましたが、ちょっと前までは「QVGAサイズに縮小して送って」と注文をつけなければいけないケースも多々ありました。私の場合、素材をいただいたりする相手は大抵PCスキルがそこまで高くない人が多かったので、この意思疎通には苦労しました。
また「あの情報ってどっちのアドレスに送ってもらったっけ?」と思い、Gmailを検索して見つからないと、今度は携帯のメールボックスを漁る、ということも二度手間も往々にしてあります。このような本来業務以外のところでストレスがたまるのは、フリーにはよくあることで、同時にフリーとしては最も避けたいことでもあります。
最近はPCでメールというと、GmailHotmailWEBメールが多いと思いますが、これらをPCから使用する場合、自分からメールチェックを見に行く必要があります。携帯に転送することで受信をリアルタイムで把握できますが、転送した携帯から、PCアドレスで返信を書くのは、非常に手間で苦痛だったりします。
iPhoneはこれを1本化できるということで、最初の購入動機はこれが一番大きかったです。もっとも初期のiPhoneはメールのプッシュ通知に制限があったので、gmail.comのアカウントをメインとしつつも、i.softbank.jpやyahoo.comのアドレスに転送して擬似的にプッシュを実現していました。
逆にiPhone OS 3.0からはMMSができるようになり、@softbank.ne.jpのアカウントも使えるようになりましたが、アカウントだけ確保して、実運用には使用していません。基本的にはプライベートでも業務でも単一のGmailアドレスを使用しています。

スケジューリング

数年前からGoogleCalendarを使い始め、それまで使ってた「ほぼ日手帳」の運用を止めました。一部の協業の方とは、プロジェクト時期だけカレンダーを共有することがあり、チームとしての進行がかなりスムーズになります。それ以来スケジューリングはデジタル1本にしています。
iPhoneは最近になってGoogle SyncによるGoogle Calendarとの同期が公式的に可能になりましたが、それ以前にもアプリなどで同期が可能でした。iPhone導入当初、知り合いに教えてもらったカレンダーアプリが、さいすけ有料版です。
デフォルトのカレンダーアプリは、予定のある日に印がつき、そこをタップすると下に予定一覧が出るという、なんとも気の効かないインターフェースが残念ですが、さいすけは月一覧の状態で予定が表示され、しかも他人のカレンダーも同時に表示することができるのが魅力です。さらに、iTunes経由で同期しなくても、3GやWi-fiでカレンダーデータの同期が可能。当時は1200円という、アプリとしては高価な部類でしたが、毎年手帳を買い替えることを考えると破格なので、すぐに購入しました。今でもお気に入りアプリの1つで、常にDockに格納しています。

ポートフォリオ

AirSharingは、iPhoneiPod touchを、無線LAN経由のWebDAVサーバーとして運用ができるアプリです。使いだした当初は他に競合アプリが無かったと思いますが、最近Good ReaderというWebDAV機能の他にも便利な多機能を備えたアプリが登場し、現在はこちらをメインに使っています。これらのメリットは、iTunes同期をしなくても、画像やPDF、動画ファイルを無線LAN経由でiPhoneに送れるという点です。iTunes9より前は、動画管理機能が貧弱で、iPhoneへの転送もファイル数が多いとかなり手間だったこともあり、動画だけはFinderで管理し、AirSharingなどで必要なものだけiPhoneへ転送したりしていました。
ところで、クリエイターにとってポートフォリオは重要な営業ツールであり、履歴書よりも気合いを入れて作りたいものです。デザイン関連の人なら、一度はブック形式で作ったことがあると思います。
見栄えがするようA3判など大きいサイズで作る人もいますが、常に持ち歩くことを考えると、そのサイズは非現実的です。なので、僕は一旦PDFに変換し、WebDAV系アプリに保存して持ち歩くようにしました。これで、偶然知り合った人などに「こういうのやってます」というのを見せることができます。特に動画作例をその場で見せるのはブック形式のポートフォリオに真似の出来ない芸当です。
もし相手から「すごい! かっこいいですね。仕事に繋がるかわからないけど、参考にそのファイルもらえませんか?」と聞かれたりすると、フリーとしてはこの上なく嬉しいことですよね。そういう場合、Good Readerであれば、そこからメールに添付して、相手に送ることもすぐに出来ます。これまでだと「わかりました。自宅に戻ってメールで送ります」なのが、その場で出来るわけです。これを最初にやった時は快感でしたね。
もっとも、高解像度でファイルサイズの大きいPDFは開けずにアプリごと落ちることもあるので、ダウンサイズして制作する必要があります。*1

メモ

メモアプリも、純正含め色々ありますが、やはりアツいのはEvernoteじゃないですかね。ただ単にメモを取って、クラウドにもバックアップを取る、というのであれば、GmailGoogleモバイル、メールアプリでも出来なくはないでしょう。ただ、EvernoteiPhoneクライアントには、Snapshotという機能があり、これが大変スマートです。iPhoneのアキレス腱として、テキスト入力が非力、というのがあります。iPhoneで通話しながらだと、根本的にiPhoneでメモをとることができません。また、チャート的なものは、どうしても手書きのほうが早いですし、仕上がりもわかりやすいです。
このように、手書きメモには一定の価値がありますが、ここまでiPhoneやデータベースサービスを使っていると、手書きメモも同じように管理したくなるのが人情です。そこでEvernoteです。要は手書きメモをiPhoneで接写するのです。iPhone 3Gはマクロ撮影非対応なので、僕はGriffin Clarifiという、マクロレンズ付きケースを使っています。3GSの人には不要です。

【国内正規品】 GRIFFIN 接写可能なマクロレンズ付きiPhone3G用ハードケース GRF-CLARIFI-IP

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iPhoneのカメラには露出補正という気の効いたものがないので、大抵白っぽいメモ用紙を撮ると、暗めに写ってしまいます。とはいえメモ書きなので、そこは割り切っています。そして、撮影すると、そのメモはちぎってポイ。捨ててしまいます。
iPhoneを使うようなスノッブな方々はRHODIAやmoleskinなどのちょっと高級なメモ帳がお好きなようです。私も高級なモノにはそれに見合う価値があるとは思いますが、どうもマス目や紙色に馴染めません。そこで、私が使っているメモ帳を紹介しようと思います。Rollbahnというものです。価格は350円程度。LOFTとかに売ってます。お手頃です。これはリングノートなので、リング部にペンが挟めます。当然リングですから、先ほど述べた、ちぎってポイも簡単にできます。しかもご丁寧に、リング部の手前にミシン目が入っています。人にちぎって渡す時などは、このミシン目でちぎれば相手に見栄えよく渡すことができます。さらには、裏表紙手前に3ポケットのリフィルがついています。名刺入れを持っていない時に名刺をもらった時などに重宝します。さらには、鞄の中で不用意に開かないようゴムバンドまでついています。まさに至れり尽くせりな内容。その名前から、ドイツ製と思われがちなRollbahnですが、製作販売しているのは日本の会社。この細やかな気配りが、日本人の繊細さを感じさせ、見事に私のiPhone + Evernote運用にマッチしています。
ところで、Evernoteは、アルファベットOCR機能があるので、丁寧な字で書かれたメールアドレスなどであれば、Evernoteの検索欄から手書きメモを発掘することもできます。現状、日本語手書き文字の検索はできませんが、撮影することで、日時が付与されるので「○月○日に電話した内容、どこだっけ?」というような探し方であれば、すぐに遡ることができます。
また、近いうちに日本語のOCRにも対応するとのことで、これまでに書きためて来た資産が活かせるかと思うとワクワクします。これからのメモは、丁寧に書くように心がけたいですね。

名刺

名刺交換というと、今までは営業さんなどのいわゆる「ビジネスパーソン(笑)」な方の世界だけのものだと思っていましたが、フリーになったら必然的にそういう機会が増えました。とはいえ、建前的に名刺を交換する場合も多く、もらった名刺を全部連絡先に登録するのも無駄と言えます。
そこで、ここでもEvernoteです。その日その時いただいた名刺は、後ほどすべてiPhoneEvernoteアプリでカメラ撮影。日本語OCR非対応な現状を鑑み、名前、所属、職業などを追記。あとは名刺タグをつけて、名刺ブックに放り込んでおきます。そして、よっぽど重要でない名刺であれば、これもポイ。*2日本語OCR機能が追加されれば、この名刺管理もかなり強力に運用できることになるため、今から非常に楽しみですね。

ボイスレコーダー

ライターさんなどには必須アイテムだと思いますが、自分にはあまり関係のないものだとばかり思っていました。ところが、自分自身で企画提案や契約条件の打ち合わせをするようになると、手書きメモだけでは追えない場合があることに気づきました。
これまでにも何度か単体でボイスレコーダーを購入しようかと思ったことはありました。iPhoneには以前からボイスレコーダーアプリはありましたが、これに限っては、単一機能としてのボイスレコーダー製品を考えていました。理由としては、iPhoneのバッテリー維持のための使用電力節約です。
ところが、OS 3.0から登場した純正アプリのボイスメモは、非常に良く出来たアプリでした。まず素晴らしいのが、純正アプリなのでバックグラウンドでも動作します。打ち合わせの最中に録音しながら、さいすけでスケジュールの確認などをすることができます。次に、クラウド的にデータ共有ができること。iTunes同期でも取り込めますが、Gmailに添付して下書きボックスに入れておけば、別のクライアントPCやMacからも確認ができます。さらには、打ち合わせ内容の確認という意味でも、打ち合わせ相手にメールで送ることもできるわけです。当然、これに替わるボイスレコーダー製品というものは無いので、iPhoneボイスレコーダーとしても運用しだしました。
ところで、Evernoteにもボイスレコーダー機能はありますが、音質が悪く、1分までしか録音できないということで、自分の思いつきアイデアを、その場でパッと吹き込む、程度にしか使えなさそうです。どうしてもボイスメモの内容をEvernoteに送りたい場合は、Evernoteの有料会員になり、メール経由でEvernoteに送る方法があります。ただし、25MBのファイル容量制限を受けます。ちなみに私はこの記事を書いてる時点では無料会員なので、ボイスメモはGmailの下書きボックスに保存し、必要に応じて、別クライアントPC/Macのローカルに保存しています。

データ共有

フライヤーデザインの仕事をすることがあります。ちょっと前まではクライアントに文字原稿を書いてもらい、それをメールで受けてデザインに流し込み、カンプとしてJPEGやPDFで書き出したものをクライアントに送り返してチェックしてもらっていました。
この運用だと、修正が重なるたびに、JPEGやPDFの書き出しをし「○○フライヤー ×月△日版」と、nightly buildみたいなタイトルのメールを応酬することになります。
しかし、それもこの1年で全くやる必要がなくなりました。Google DocsDropboxのおかげです。どちらも当初はWebサービスでしたが、iPhoneとも親和性が高く、特にDropboxは先般ネイティブアプリが登場し、より使いやすくなりました。
まず原稿をGoogle Docsに書いてもらいます。私の場合、クライアント側でも複数人で原稿を書いたりチェックしたりするので、先方としてもやりやすくなったようです。ひとまず初稿が上がった段階でデザインを組み、今度はDropboxにPDFを保存します。この保存したDropboxの階層をクライアントのスタッフ全員に公開し、チェックしてもらいます。素材もメールではなく、Dropboxに直接入れてもらったほうがありがたいので、最近はそうしてもらうことが多いです。
その後、文言修正がある場合には、Google Docsの履歴で差分を確認し、修正。Dropboxへの書き出しは、上書きします。Dropboxにも差分履歴機能があるので、修正ごとに番号や日付をつけて別名保存する必要がなくなります。あとは、修正した旨をメールで通知するだけ。毎度毎度、メーラーで添付ファイルを選ぶ必要がありません。
この運用は、こちらが発注側になっても有効です。イラストレーターに外注することがあるのですが、ラフをさらっとpsdで書いてDropboxに放り込んでおき、メールもしくは電話で概要を説明、イラストレーターはその階層に、納品用ファイルを作ってくれるわけです。そのDropboxの階層を作業フォルダとして制作を進める場合、IllustratorやAfterEffects、Premiereなどリンク機能があるアプリでは、その納品してくれたファイルを、リンク素材としてそのまま利用することができます。納品後の手直しがあっても、リンクファイルでさえあれば、制作物への反映も自動的になされるわけです。
ただ、欲を言えば、.aiや.psdもDropboxiPhoneアプリでも見れるようにしてほしいところです。デフォルトでは、コンポジット画像がPDFとして埋め込まれているので、そこを利用すれば、簡単に見れるはずなんですが。

電話

意外にも、電話としてもかなり完成度が高い。それほどたくさんの携帯電話を使って来たわけではありませんが、音質が良いです。最近ではガラパゴスケータイにも普及しましたが、スピーカーホンが出来るのもいいですね。相手が出るまでスピーカーホンにしておいて、出たら受話器モード(?)にする、っていうのも簡単にできます。
あと、これはiPhone特有のものではありませんが、デフォルトでついているヘッドホンには、マイクが仕込まれています。つまり、ハンズフリー通話が出来ます。しかもデフォルトで。Bluetoothヘッドセットにも対応しているわけですから、さらにはワイヤレスにすることもできるのです。ハンズフリー通話の世界は、一度やると病み付きになります。通話しながらキーボードが打てるので、iPhoneで通話しつつ、別クライアントPC/MacEvernoteにメモをとることも不可能ではありません。
あと、長時間通話時の腕や肩への負担がなくなります。あまりにもストレスフリーなので、長電話がさらに長くなってしまうかもしれません(笑)
これはSoftbank 3G回線だけの電話だけではありません。iPhoneにはSkypeアプリもありますから、Wi-fi下においてSkypeユーザー同志であれば通話料無料で会話できます。もちろんチャットも可能。Skype有料サービスも使えます。私は1カ国限定プラン695円/月というのに入っています。この1カ国というのを日本に設定すると、日本への固定電話は月額定額料のみで通話し放題になります*3。昨今固定電話にかけることは少なかったりしますが、クライアントが固定電話を持っている場合、あるいはお店や広報への問い合わせといった場合には非常に便利ですね。また、月額費用+スカプクレジット使用で、日本の携帯電話相手には1分20円程度。ソフトバンクホワイトプランが30秒21円ですから、半額近い値段でかけることができます。*4ただし、日本の通信制度上の制約から、Skypeから日本の番号への発信では非通知になってしまいます。固定電話の場合ではあまり気にならないかもしれませんが、携帯だと非通知からかかってくるととらない人も多いでしょうから、ここはちょっと考えどころではあります。
しかしまあ何にせよ、iPhone + ヘッドセット(+ Skype)で通話しながら、別マシンEvernoteにメモをとる。これに慣れると手放せません、、、

デメリット

冒頭でも言いましたが、毎日が仕事モードになる可能性があります。メールのアカウントを仕事とプライベートで使い分けられるなら、休みの日には、仕事アカウントをオフにするべきでしょう。iPhoneの電話番号を仕事でしか使わないのなら、休みは機内モードにするべきです。それだけ、iPhoneの仕事力は高いと言えます。
デメリットというほどではありませんが、SafariのWebは表示が綺麗なのに、3Gの速度が遅く、昨今のWebはリッチ過ぎるため、なかなかストレスフリーでフルWebを見るのは大変です。*5出先で調べものをしたい時にフルWebが見られるのは便利ですが、もう少しなんとかならないのかな、とは思います。
iPhonの仕様上、通話の録音はできないそうです。電話だけで仕事を進める人と、メールメインで仕事を進める人がいますが、通話がボイスメモと同じように録音できてクラウドに保存できれば、前者に対して言質を取ることができるので、仕事用の電話としては、是非とも実装してほしい機能のひとつです。

結論

フリーランスの人は、すぐにでもiPhoneを買うべきです。特に営業面、マネジメント面の部分で、独り業務を助けてくれます。制作者としては、そこで浮いた労力を、制作に傾けられるわけです。ここまでくると、ちょっとした秘書を常に連れて歩いているような感覚になります。この全智全能感は現状、iPhone以外のプロダクトでは中々得難いでしょうし、一度味わうと元に戻れないほどの快感です。もし仮に今iPhoneを失ったら、私は仕事する気力を失うでしょうね。それほど価値ある製品ですよ、これは!

*1:Good Readerはlarge PDF viewerと謳っていますが、88MのPDFを開こうとしたら落ちましたので、やはり限界はあるのでしょう

*2:もちろんシュレッダーにかけますが

*3:一応、最長通話時間が決められてたりしますが

*4:当然、PCやMacから使用するSkypeも同じ

*5:とはいえ現状、ケータイのPCフルブラウザとしては最高の出来