フリーランスマッチングサイトの厳しさ、酷さ

先日、私も利用しているnanapiというサイトで副業としてイラスト・デザインで稼ぐ5つの方法はてブで注目を集めてたんですが、ちょっと誤解されて捉えられてるようなフシがあったので、この記事にまとめておこうと思います。
ちなみに、当該記事や拙ブコメでも警鐘を鳴らしたつもりですが、当記事はその補足を含め、より精査した内容でお伝えしたいと思います。

Lancersで当選経験があります

当該記事を読んでもらえればわかりますが、趣旨としては以下のようなものです。

  • 昨今不況なので、デザインが出来る人はSOHO募集サイトで仕事が得られる
  • ただし副業として得られる程度の報酬
  • コンペ形式が多いので、当選しないと収入にはならない

といった内容です。
当該記事そのものへの異論はありません。というのも、私自身、記事で紹介されたサイトのひとつ、Lancersでの投稿と当選経験があるからです。
ただ、当事者として敢えて当該記事への文句をつけるとすれば「副業」ではなく「お小遣い稼ぎ」として認識してほしい、ということです。
私自身のLancersにおける実績として、10数件応募して、当選がたったの1件という事実があります。もっとも、これは私の実力がその程度であって、実際にはもっと勝率の高い人もいらっしゃるかもしれません。しかし、この程度の当選率では、費用対効果は「副業」としてはあまりにも効率が悪く、「当たればラッキー」=「お小遣い稼ぎ」的なシステムとしか私には考えられませんでした。
nanapi当該記事では複数サイトが紹介されていますが、私の経験はLancersのみですので、以下記事はLancersに焦点をあてた内容でお伝えします。

個人的にLancersはイケてないと思う点

まあ、色々あるんですが、箇条書きにすると以下な感じです。

  1. コンペなのに公開される
  2. 当選=採用ではない
  3. 単価が安い
  4. クライアントのデザイン意識が低い

先に述べたものほど理不尽さが大きいと感じてる点です。個別に見ていきたいと思います。

コンペなのに公開される

もっとも私自身大企業などが行うコンペなどに参加した経験があるわけではないのですが、そもそもコンペとはプレゼンテーションであり、本来納品物をそのまま提出するものではないと考えています。
例えば大規模プロジェクトなどのコンペなどでは、その納品イメージに近いものを提出してクライアントのイメージに一番近いモノが選ばれるという認識でいます。ところがLancersでよく募集されるロゴやネーミングといったものは、提案=即採用できるクオリティのモノが多いということです。

建築などは実際作るにあたっては莫大な金額がかかるのでコンペという手段を踏んで優秀作を選ぶのが効率的ではあるのですが、昨今デザインがデジタル化された現代においてはロゴやイラストといった分野においては、デジタルデータで作成されてさえいれば、そのまま実際の成果物として利用が可能になってしまいます。
Lancersは非常に多機能なサイトで、それ自身は素晴らしい出来だとは思うのですが、クライアント側の設定次第で、コンペの途中経過を公開するか非公開にするか選べてしまうという大きなポイントがあります。
本来のコンペであれば、締め切り後に公開し、その結果をもってクライアントが選ぶべきなのでしょうが、募集中も公開であれば、後から参入する企業・ユーザーなどがそれを参考、パクられてしまう危険性も孕んでいます。実際、とある1案件に関しては、明らかに私自身、先に投稿された意匠とは全くことなる意匠で提案したにも関わらず、私の意匠を真似た内容で応募した輩がおり、腹立たしく思った経験があります。(結果的には私も後からパクってきた輩も当選しなかったのではありますが)
Lancersには、募集期間中、クライアントが望む方向性に近い応募に対して、☆をつけて評価するシステムがあります。つまり、☆がたくさん付いている作品をパクりかつクオリティがより高ければ、当選する確率が高くなると、デザイナー側は錯誤するわけです。(しかし、よりクオリティが高いかどうかはクライアントの主観なので、それが保証されているわけではありません)

当選=採用ではない

これも理不尽なのですが、Lancersのシステムとして、提案案件を複数当選させることが出来るようです。コンペとしては矛盾していると思うのですが、あくまで提案案件は叩き台に過ぎず、クライアントはこれをさらにブラッシュアップさせる権利があると考えているようです。
先ほども言いましたが、昨今のロゴやイラストといった案件は、デジタルデータがそのまま一般流通できるクオリティとして制作可能となっています。当然、提案する側は他との差別化を図るべくクオリティを高めて提案するわけですから、そのまま使用可能な状態で応募が殺到することになります。
とはいえ、クライアントの意向とズレが生じることもありえるでしょう。それを修正させるのもクライアントには在ると思います。ところが、Lancersのシステムは、複数の提案案件を当選させることが出来、さらに修正をさせた後、最終的な提案のみに報酬を支払うシステムになっています。(実際とある1案件にて当選したものの、修正を求められ、修正後却下を食らった案件があります。もちろんノーギャランティーです)
個人的にコンペというものは、ある程度の叩き台をクライアントに提案し、クライアントはその中から一つだけを選び、最終的にクライアントの望む形へと昇華させていくものだと思っています。コンペそのものは公募ですから、応募するものに報酬発生しないのは理解できますが、そこからクラアントの要望を聴く時点でこちらに対価が発生しないのは理解に苦しむところです*1

単価が安い

デフレだからしょうがない、というだけでは済まない単価だと思います。上記段落で取り上げたように、単に当選したからといって応募作だけで報酬が発生するわけではありません。それを踏まえて当該サイトと、当選作品のクオリティを見ていただきたいのですが、どうも募集しているクライアントは中小零細企業が多いようです。
個人的な思いとして中小零細だからといって手心を加えるつもりは全くありません。しかし、不当に安い値段で募集しているところが多いように思えますが、価格水準なんてあって無いようなものなので、どんどん価格が下がっていくことには、ある一面から考えれば仕方のないことかもしれません。
とはいえ、Lancersの価格水準を見ていると、限度を超えているとも思います。どう考えても、この価格水準でやっていれば、個人のフリーランサーが正当なキャッシュフローとしてやりくりできるとは考え難いからです。
数年おきにアップデートされるAdobe CreativeSuites、同じく数年おきに買い替えねばならないPC、万が一に備えるためのバックアップシステム。それらを考えると、Lancersで提示されている金額ではどうしてもやりくりできないと思います。もっとも、Lancersだけを収入源としてアテにしている提案者は少ないかもしれないですが、他で収益をあげているなら、Lancersのようなサイトにやってくる業者/フリーランスは少ないと思います。

クライアントのデザイン意識が低い

大企業で途中に代理店を挟むような場合であれば、大抵アートディレクターが存在するので、明らかに酷いデザインなどはフィルタリングされます。ところが、Lancersにはそういうシステムがないため、クライアントが気に入ったもの=当選となる傾向があります。当然クライアンにデザインや美意識といったものが備わっている人が全てかと言えばそうでないのは明白ですので、不当に自分のデザインより劣ったものが当選する可能性があります。
もっとも、クライアントの選んだものですので、そこに異論を差し挟む余地はないのですが、こちらは良かれと思いデザインに思案をめぐらせ制作したものより、明らかに素人が片手間にやったものが当選したのではやりきれないというものです。
Lancersにはデザイン案と同時にコメントを記すシステムがあるので、ここで精細な補足をつけることがアピールのチャンスといえます。ここで応募する人は、文章力も試されると考えたほうがいいでしょう。私は過去の経験上、デザインは得意だけど、自分のデザインを説明するのが苦手、という同業者をたくさん見てきました。それは大変もったいないことで、それはLancersというサイトだけで不利なわけではありません。是非デザインを生業とする方には見につけて欲しいスキルだと思います。
個人的に感じたのはLancersに多い飲食店ロゴなどの募集は、デザインに対しては無頓着、或いはデザイナーの間で常識とされていることが通用しないケースが多いと思います。逆に何かしらデザインに関係する案件のクライアントは、デザインに対して理解をある程度持ち合わせていると考えていいでしょう。とあるネットテレビ番組のロゴに応募した際は、当選したものの、そこからさらにデザインを深めてほしいということでした。他数作品と競合し結果として落選しましたが、こちらの文章で提案した内容にも理解を示していただき、残念な結果でしたが、納得いく仕事が出来、自分にとっては有意義な経験になりました。

副業なのか、お小遣い稼ぎなのか

私自身の感覚として、副業の定義とは、個人の生活費を足すに足る収入が保証されているか否か、にかかっていると思います。例えば、本業とは別にアルバイトをし、少額ではあっても、月々の定収がある程度の期間に渡って保証されていれば、それは副業だと思います。
フリーランスの業務は、まず仕事があるかどうかが流動的です。元いた会社から独立して、その会社からコンスタンスに仕事が回ってくるという人はだいぶ恵まれています。しかしコンスタンスに回ってくるかどうかというのは運次第ですし、それすらない人は自ら営業に赴く必要があります。コンペもそういう意味では営業の機会が与えられていて分りやすいのですが、そのぶん競合が多くハードルが高いともいえます。むしろ飛び込み営業をするぐらいのほうが得られる仕事が多いのではないかとも思うぐらいです。
nanapi当該記事では不況の折、収入が減り生活のために副収入を探している方とありますが、はっきり言ってLancersでは目減りした収入をカバーできるだけの報酬が得られるとは思えません。この文言を額面どおりに捉えている方は、すぐにでも認識を改めたほうがいいでしょう。
再度言いますが、副業ではなく、お小遣い稼ぎとしてやってください。

実績を得るには良いのか?

ブコメで散見されたのは、実績を作るには良さげ、というものがありました。しかし、実績とは一体何を指すのでしょうか?
仮にここで当選したものは、自己の受注案件として、クライアント先の許可が得られれば、自分の作品として広く告知することができるでしょう。もちろんポートフォリオに収録して、次の仕事でのアピールとして使えると思います。
ところが、落選したものはポートフォリオとして収録できるのでしょうか? Lancersの規定には

残念ながら当選できなかった場合は報酬を受け取ることはできません。今回の提案の知的財産権はあなたに残ります。当選した提案を見て当選するコツを研究するのもいいでしょう。
提案をまつ - コンペ方式

つまり、クライアント側から版権や商標のある素材を含めるデザインを指定しなかった場合は、自分のデザインとして自由に使えることになり、ポートフォリオや自分のサイトに掲載することはクライアントの許可もいらず、問題ないということになります。
とはいえ、正式に採用されなかった意匠を自分のものとしてアピールしていいのか、という考えもあります。
プロのデザイナーとして活躍している人は、実際に仕事として成約したものをメインにポートフォリオを編集しますが、成約しなかったものは学生の習作レベルです。
一概に習作がいけない、というわけではありません。これまで自分が手がけてきたジャンルとは別のデザインもできるというアピールが出来れば強みになるケースもあります。とはいえ、学生でもなく、数年以上実務のキャリアがあるのに、習作ばかりを収録したポートフォリオでは、実務経験が少ない、または皆無と見なされ、クライアントに対しては有効なアピールにはなりえないのではないか、と思います。
そもそも、習作をたくさん作れる人は、このようなサイトを利用するまでもなく、沢山の架空広告や架空サイトをでっちあげられるものです。そういう人たちを相手に勝負するのに、これらのサイトが有用に働くとは思い難いのです。

最後に

nanapi当該記事の中でLancersのみでの経験を基に書きましたので、異論などもあるかと思いますが、総じてこのサイトはレベルが低い、と感じています。個人的にはどの案件にも自分の持ちうる技術を総動員して提案しているのですが、10数件中1件当選したクライアント様は、某大手ゲーム会社N様でした*2。さすが大手だからこそ、自分がぶつけたクオリティを認めていただけたのではないか、と自分では勝手に思っています。
中小零細企業がクライアントだからといってバカにするつもりは全くないのですが、細部までこだわって制作したものが、他の大枚なデザインに負けたのでは、どうしても行き場のない怒りがこみあげてきます。コンペとは優秀なものを選ぶためのシステムなはずですが、低い値段で低品質なものが選ばれてしまうようでは、誰も得するきっかけがなく、業界全体が負のスパイラルに陥ってしまいます。
ちなみに、私自身は10数件応募した段階で、Lancersに提案するのは取りやめています。正直言って、現状のシステムではやる気が起きません
nanapi当該記事を読んでこれから参入してみようと思う方は、この記事を読んで、自分にどれだけのメリットがあるか慎重に推し量ってから参加されることを強くオススメいたします
なお、私自身、フリーランスデザイナーをクラウドにてマッチングする昨今の傾向に強く懸念を感じていますので、賛同いただける方はソーシャルブックマークReTweetなどで広く告知していただければ幸いです。異論ある方などは、今回に限りコメント欄を開放しましたので、そこに書き込んでいただければと思います。(ただし、コメントは認証制にしてますので、根拠の無い下品な野次などには取り合いませんので、よろしくお願いします)

*1:私自身が経験不足なのかもしれません。業界慣習的にこのようなシステムが認められているのであれば、ご教授いただきたいです

*2:Lancersの仕様上、応募段階でクライアントの企業名は隠されている場合があります