クロムモリブデン「ユカイ号」劇評

クロムの舞台はこれが3度目。クロムは1989年が旗揚げというから、僕なんかはファン歴としてはまだまだ青い部類だろう。「ソドムの中」「なかよしshow」と続けて観てきての3作目。これからも逃すこと無く見て行きたいと思う。
2004年6月27日の日曜日。千林大宮にある大阪市芸術創造館14時からの公演を観た。開演10分ほど前にすべり込んだけど、まだ少し席が余ってて助かった。2幕から連れが4人遅れてやってきたが、席にはありつけたようだった。
開演前、ホールの人?とおぼしきおじさんが挨拶した。携帯電話は音が出ないように、という説明がなされる。マナーモードでも、バイブの音が他のお客さんに迷惑になるからサイレントモードにしてください、設定のやり方が解らない人は、お近くのスタッフまで、とか、メールチェックだからといって携帯を客席で開けると、画面の明かりが後ろのお客さんに迷惑だから、メールチェックはやめてください、とか、やたらしつこく携帯に関する注意がなされて、なんなんだ? と違和感を感じるも、幕が上がれば伏線だったんだな、と納得。
要は女性を携帯電話に見立てた(擬人化)したお話で、その携帯電話かつ女性が誘拐されたり、或は男(携帯の所有者)の元から愛想をつかして逃げ出したりする。女性は男に弄ばれるのだが、それは携帯の蓋をパカパカしたり、アンテナを出し入れしたり、というプレイだったりする。ちなみに、固定電話としての主婦が出てきたりもする。
携帯電話をモチーフに嘲笑的な話を作るというのは、どう考えても時代遅れ過ぎるけど、それは社会学やメディア学としてのメールやウェブのコミュニケーション論を取り上げるのではなく、あくまで日常的な蓋をパカパカであったり、アンテナの出し入れを嘲笑っている点が、携帯電話の社会に対するアンチテーゼなんていう陳腐なものを打崩していて痛快。
また、携帯電話を女性に見立てることによって、フェミニズムに対する嘲笑も忘れていない。固定電話の主婦?が「社会を知らないから」という言葉はありきたりだけど、印象的だ。それは所謂田嶋陽子的なフェミニズムではなく、一般的な現代の女性としての女性論に過ぎない。
結局、すべてが卑近なのだ。パンフレットやフライヤーには、劇の内容的なものは一切書かれていない。すべて、おもしろおかしく言葉遊びを列ねてあるだけ。しかし、一度劇の幕が上がれば、携帯電話や女性をモチーフに、大仰なテーマをかかげているように見せ掛ける。しかし突き詰めてみると、やっぱり大仰なテーマは卑近な笑いによって虚像にされてしまうのだ。
まだ3作、演出家青木氏の純粋な作としてはまだ2作しか観ていないものの、その中でこれだけは断言できる。彼等の作は須く確信犯的だ。
と、なにやら仰々しく書き連ねてみたけど、要は誰にでも分かりやすいJ-phonevodafoneは同じ会社じゃないんですかとか、オレオレ詐欺じゃなくてワタシワタシ詐欺*1じゃないんですかとか、そういう笑いです。多分10代から30代の人は無条件に笑える。だからオススメだよ、クロムモリブデン

*1:わりと時事ネタをモチーフにすることが好きなようだ。前回のなかよしshowでは、使い捨て拳銃をポイ捨てして「千代田区ですから!」と怒られてた